マーキュリアウェイ

第四回

「事業承継マッチングプラットフォームにできること」ビジネスマーケットの表社長と語る

 今回は、マーキュリアインベストメントのグループ会社で、事業承継マッチングプラットフォーム「ビズマ」を運営するビジネスマーケットの表社長との対談を通じて、事業承継に対するマーキュリアグループの取組みや思いをお伝えする機会としたいと考えております。
ビズマHP

「ビズマ」プロジェクトの原点

豊島
豊島氏
 ファンドマネジメント会社は、「金儲けがすべて」と見られがちですが、弊社は違います。「儲けは結果」であって、入り口は「出会い」です。また、投資を受ける側は相手を気にします。お金には色があるのです。ですから、大前提として良い投資機会に出会う確率を高めなければなりません。そのため、ファンド運用会社として、日頃から重点分野に対する我々の取り組み姿勢を示していくことが大切だと考えています。
 マーキュリアの従来のテーマである「クロスボーダー」に続いて、2016年の上場記念セミナーで「事業承継」を取り上げましたね。これは、承継問題へのソリューションがマーキュリアの重点投資分野となることを念頭に置いていたからですね。
豊島
 その通りです。「国のカベ」「心のカベ」に続いて「世代のカベ」に挑戦したいと。団塊の世代が2014年に65歳を超え年金の受給を開始する一方、家計金融資産の7割以上が60歳以上に集中しています。企業が世代交代をするには、大きな資金が必要となりますし、しっかりした事業基盤を持つ会社ほど企業価値が高くなるので、投資金融のニーズは明らかです。意欲ある次世代に事業を引き継ぐために、ファンドが果たせる役割は大きいと実感しています。
 上場と同時に始められた「日本産業成長支援ファンド」は承継ニーズにも対応するファンドだと理解していますが、反応はいかがですか?
豊島
 手ごたえを感じます。すでに4件の投資を行いましたが、いずれも、かつての同族会社で、経営者の世代交代が契機となって弊社の投資につながりました。次の案件も見えており、大変順調だと自負していますが、我々がファンドで対応できる会社数は微々たるものです。世の中の、中小企業は非常に数が多く、情報も限られます。わが国が直面する巨大な事業承継問題をもっと「見える化」し、それに取り組む産業や人々の数を大きくできないだろうかと考えました。それが「ビズマ」プロジェクトの出発点です。とは言っても、我々の本業からは外れますし、事業立ち上げのためには起業マインドを持つ人材が必要です。幸い、表さんに共感いただき、「ビズマ」事業をリードいただくことになりました。

「ビズマ」事業の狙い

豊島
 表さんは、ソフトバンクでIRを担当され、その後、数多くのベンチャーに携わってきた方です。表さん。改めて「ビズマ」の狙いをご説明いただけますか。
表氏
 ご紹介いただきありがとうございます。まず、わが国には約350万社の中小企業があります。現在、中小企業経営者の中心年齢は66才。つまり、事業承継はわが国にとって、待ったなしの課題なのです。残念ながら、毎年約3万社もの会社が休廃業や解散しています。更にがっかりするのは、このような休廃業や解散する企業の方が存続企業よりも利益を出しているという現状です。こうした背景を受け、ここ数年でM&A仲介大手でも、承継ニーズへの取り組みを強化していますし、オンラインサービスをスタートさせるところも出ています。しかし、これらのサービスは相応の専門知識と労力を必要とし、それを仲介手数料によって収益化しなければならないため、初期コストが必要となることに加えて、案件情報の公開範囲が限定され、短期間での成立を目指す傾向が見受けられます。必然的に取り扱える案件も中堅企業以上のものとなります。それに対して「ビズマ」は、承継先を求める企業の視点から、事業承継の入り口をできるだけ低くすることを目指しています。事業に関心をもつ相手との出会いまでのプロセスの大半をシステムとWebでサポートしますので、お金がかかりません。小さな事業会社でもアピールの仕方によっては、全国から関心を集めることができますし、承継時期も未定や数年先で構わないので、承継を考える会社にとって、精神的なハードルがグッと下がります。このような方法で、潜在している承継ニーズが可視化される効果を期待しています。
豊島
 「ビズマ」のサイトを見てみると、本格的な製造業案件から、地方レストランのような零細なものまでありますね。特に、小規模案件は、仲介業的には、コストが合わないので、従来は見えなかったカテゴリーだったので新鮮でした。一方で、「ビズマ」が既存のM&A仲介業と競合するのではないかと誤解されている方もいるようです。実際にそういった声を聞くことはありますか?
表氏
 確かに、「M&A手数料を狙っているんじゃないか」(笑)、という誤解をされている方もいらっしゃいますが、「それは違います」と明確にお答えしています。実態は逆で、「ビズマ」に案件を登録されている方々の大半がM&A仲介やそれを支援する専門の方々です。案件に対する問い合わせは、登録した会社や団体に入ります。仲介業者が提供するサービスに対価が必要となるのは当然ですが、「ビズマ」はそこには関与しません。仲介業者にとっても、相手が見えていれば、その実行支援は可能ですのでビジネスの幅が拡がります。「ビズマ」は出会いの場を提供しますが「ビズマ」をきっかけとして案件が成立しても、プラットフォームとしては一切の成約手数料をいただかないこと、そして、M&Aディール交渉にも関与しないということを、誤解が無いようにお伝えしています。

「ビズマ」はデータ管理サービス

豊島
 私が学生だった時、どこの銀行にも「伝言板」があって、そこで「家庭教師やります」と書いておくと電話がかかってきました。銀行の収入にはなりませんが、家庭教師代は私のものでした。それと似ていますね。でも、それでは「ビズマ」は、どのように収入を得るのですか?
 データ管理サービスですね。事業承継に関与する人たちにとって、ターゲットとなる会社のリストを作成するのは、大変な労力がかかる仕事なんです。会社の状況も刻一刻変化します。これは、仲介業者だけではなく、承継を支援する公的機関や自治体、金融機関の現場でもそうです。また、承継作業にはコストと時間がかかるので、小規模な案件を扱える事業者は限られます。組織内で使うデータ、グループ間で共有するデータ、Webで公開するデータなどを、別々にEXCELシートで定期的に整理・アップデートするのは膨大かつ、無駄の多い作業となります。事業承継で本当に大変なのは、相手候補が決まった後のプロセスであって、名簿管理にかかる労力やコストは合理化できると考えました。データ管理サービスを契約いただいているユーザーは有料となりますが、マーキュリアはもちろんですが、金融機関や自治体、その関連団体になります。クローズドなサイトには、求められれば、「ビズマ」が独自にスクリーニングしたデータを提供することもありますし、ユーザーが自ら入れたデータもあります。また、レイヤー別にアクセスとセキュリティを管理する一方でパブリックに公開することも、キー操作ひとつで可能です。クラウドサービスの一種とお考えいただければ、イメージしやすいかと思います。

潜在的に巨大な承継ニーズ

豊島
 世の中では、どの分野でもビッグデータの話題で持ち切りです。どちらかというと、職人芸や個人ネットワークに依存してきた承継M&Aマッチングの分野にデータ活用が導入されて裾野が拡がると良いですね。承継の必要がある会社というのはどれくらいあるのでしょうか。
表氏
 そうですね。日本では毎年数多くの優良企業が自主廃業しています。特に、経営者の高齢化に伴う廃業数は今後とも高い水準を維持していくと予想されています。これはどのくらいのインパクトかというと、2015年の日本の企業数を100%とした場合、2040年までには73%となってしまうという計算結果が出ています。※1。
 そうなれば、雇用機会の喪失をはじめ、経済的な損失は計り知れないものになります。しかし、中には相手さえいれば事業のバトンタッチが可能な会社もたくさん含まれるのです。この問題にM&A仲介という王道モデルで取り組む場合、例えば大手のM&A仲介会社や金融機関のM&A部門が扱える案件サイズというのは、人的、時間的リソースの負担を考えると、取引金額(企業価値)として少なくとも1億円という金額が一つの目線になります。その理由は、事業承継やM&A取引の成約までの期間の長さがあります。短くて半年、複数年掛かることも珍しくありません。こういった取引の調査や分析などを複数の担当者を動員して動かすには、仲介手数料としても数千万円の水準が見込めなければ事業として耐えられないという現実があります。
豊島
 やはり、数字の上では従来の方法ではカバーされない会社が大半になりそうですね。
 おっしゃる通りです。そもそも日本における事業者数の母数としても中小・零細企業がその99.7%を占めています。必然的に、数のうえでは、事業承継における支援を必要とする企業は年商数千万円以下の中小・零細企業が大半を占めます。ですから、何のためにこの事業をやっているのかという原点を反芻し、一件一件の収益ではなく、事業承継の支援を求める多くの企業の声を顕在化させるために何をなすべきなのかということをつきつめて、成約手数料を一切取らず、データ・システム支援主体のプラットフォームを立上げることになりました。事業のスタートから仲介収益の獲得を外したことが、他社とは全く別のビジネスモデルに繋がっています。この点は豊島さんとも何度も喧々囂々議論させて頂きましたね。(笑)その議論のおかげで、現在の独自の事業モデルが確立できたと考えています。

小規模案件に必要なステークホルダーとの連携

豊島
豊島
 ビジネスモデルについては、本当に沢山の議論を交わしましたね。この「ビズマ」のサービスによって、コスト面でのハードルはかなり下がったのではないかと考えています。その一方で、本当は事業承継したいが声をあげない。もしくは、70代後半になっても、体力・気力に自信を持って、検討を始めていない事業オーナーも多くいます。今のままでは10年間続かない事がわかっていても思考停止してしまう。いわゆる心のカベのためにニーズが表に出ないのが現状ではないでしょうか。
 そうですね。事業承継に悩むオーナー自ら、案件を掲載してもらえるような環境を作っていくことが理想ではありますが、現実にはなかなか動けないオーナーに代わって地元金融機関や商工会議所、M&A仲介会社などが掲載してくれているケースが多いですね。当事者よりも周囲のステークホルダーが地域のために何とか事業を残したいという思いから事業オーナーの背中を押してくれているというのが現状だと考えています。
豊島
 いわゆるプロ向けのサイトになっているということでしょうか?
 そういう側面もあります。だからこそ、多くの中堅中小企業を基盤として事業を行っている志のある地域金融機関である福岡銀行、きらやか銀行(きらやかコンサルティング)、きらぼし銀行、北海道銀行といった地域金融機関や長野県飯田市といった自治体との連携が進み、事業連携のみならず官民の第三者とのデータ連携といったテクノロジー面での連携も進んでいるのです。
豊島
 マーキュリアグループ内からも、意外な展開がありました。弊社の子会社がタイにありますが、現地の日系企業をサポートする仲介会社から、タイ国内にも数多く企業の売り案件があるので、日本において紹介したいという声があり、「ビズマ」の中で海外案件を紹介する取組みも動き始めました。
 はい。マーキュリアのタイ子会社と連携して、海外進出を目指す企業向けにタイをはじめとした東南アジアの案件の取扱いを実験的に始めました。連携している地域金融機関向けの専用サイトなどを通じて、地域の優良企業が海外進出を目指している場合には、優良な提案が出来ると考えております。中規模海外買収案件は国内の一般的なM&Aプラットフォームではあまり取りあつかっていない分野でもありますので、まさにマーキュリアグループとしてのネットワークを最大限活用させて頂きたいと考えています。
豊島
 政府も地域創生の柱として事業承継に注目していますね。
表氏
 はい。事業承継税制の優遇措置や補助金などの支援策が出てきていますが、圧倒的に足りないのはそのことをアドバイスする伝道師のような立場の方です。自治体、金融機関、そして弁護士や会計士も、事業承継に関するノウハウやナレッジの蓄積が必要で、且つ、それを事業オーナーに伝えていかねばなりません。ここに関しては、昨年当社に資本参加頂いたインソース社が持つナレッジシェアやセミナー開催・運営のノウハウをお借りしながら、事業承継のアドバイザーを養成したり、そのノウハウを継承していく仕組みを浸透させていくのも大切な役割だと考えています。

事業承継の“その先”を共に創る-日本経済を次世代の手に-

豊島
 せっかくの機会ですので、表さんの個人の思いも聞かせてください。
 私自身、前職ではベンチャー企業で投資子会社を立上げ、日本のM&A市場に向き合い、その特殊性を肌で感じ、そこに一石を投じたいという志しがあったわけですが、M&A市場だけでなく、日本経済の基盤である中小・零細企業が迎える大廃業時代という大きな社会課題への解決策の提示をしていく取組みを担えていることは誇りです。
 そもそも中小・零細企業向けの支援に対して、事業として取り組みたいと考えたきっかけは、家業が山中漆器という石川県にある伝統産業を営んでいたことにあります。自身で承継することを考えたものの、職人ではない自分が縮小する市場の中で代替わりしていくことは現実的に難しく、普通のサラリーマンとして働いてきた訳です。一方で伝統工芸の分野を学び、志す若者を受け入れている地域もあります。幼いころから見てきた父親の働く姿を想うと共に、そういった事業オーナーが99%以上を占めるという極めて特異な市場である日本に生まれた以上、いつかは中小・零細企業のためになることを事業としたいという強い気持ちをもってきたからに他なりません。正直こういった原体験が無い方が向き合うには非常に難しい市場ともいえるかもしれませんが、この事業承継市場の未来を創ることが日本経済の未来にも繋がっていくと信じて、一歩一歩尽力して参りたいと考えております。
豊島
表氏
 表さんのその熱い思いがあるからこそ「ビズマ」が立ち上がり、さまざまな関係者との連携が始まったのだと思います。いつも皆さんにお話していますが、会社というものを考えた場合には、5つの概念があると思っています。それは「法人格」、「株主」、「取締役」、「従業員」、最後に「事業部門」です。マーキュリアは常に事業に投資するという考え方で仕事をしてきたわけです。経営者や従業員は自然人ですので、いつかは世代交代のタイミングが来ます。その時に、「法人格」や「事業」は誰が受け継ぐのか?事業承継プラットフォームである「ビズマ」が、データやシステムの活用によって、事業承継という大きな社会課題の解決に貢献することを期待しています。良い案件があれば、もちろん、わたくしたちも投資を検討いたします。
 これからも次世代への投資を信じて、共に頑張りましょう。本日はありがとうございました。

※1 (出所)「財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成29年第3号(通巻第131号)2017年6月」

表 一剛
株式会社ビジネスマーケット
代表取締役社長

東京理科大学卒業後、日本NCR、監査法人トーマツ、メンバーズ、ソフトバンク、クラウドワークスを経て、2017年にマーキュリアインベストメントに参画。
2017年8月 ビジネスマーケットの代表に就任。
クラウドワークスにて投資子会社を設立し代表を務め、実際の投資・M&A案件のソーシング活動を通じ、日本における投資・M&A市場の活性化の必要性を痛感し、市場の活性化とともに、日本の中小・零細企業の事業課題の解決をサポートする事業承継マッチングプラットフォーム「ビズマ(BIZMA)」を立上げる。
ビズマHP:https://bizma.jp/
幻冬舎ゴールドオンラインにおいて、“迫る大廃業時代…後継者不在に悩む事業オーナーのための「今からできる事業承継対策」”が連載中です。
https://gentosha-go.com/category/k0246_1