マーキュリアウェイ

第五回

「REITが日本の物流を支える」伊藤忠リート・マネジメントの東海林社長と語る

 今や、ネット通販は我々の生活の一部となり、宅配便の急増による物流事業者への負担増が社会問題となっています。今回は、日本のロジスティックスを裏で支えている物流施設特化型REITの資産運用会社である伊藤忠リート・マネジメントの東海林社長と、REITの役割やデジタル化のトレンドなどについて議論させていただきます。
豊島
豊島氏
 当社と伊藤忠グループはとても深いご縁があります。きっかけは、私どもの投資対象であった北京のオフィスビルに伊藤忠の中国本社が入居されたことです。そのご縁で投資組合にご参加いただき、それが現在香港で上場しているREITになりました。並行して、マーキュリアの株主にもなっていただきました。昨年2月には、伊藤忠エネクスと一緒にエネクスインフラ投資法人というインフラリートを上場いたしました。また、伊藤忠が関与する形で7月より物流、不動産、建設のBtoB分野において革新的なテクノロジーを展開する企業に注目するビズテック(BizTech)投資戦略をスタートさせました。本日は、東海林社長から物流業界のお話をうかがう機会をいただき、ありがとうございます。はじめに、伊藤忠リート・マネジメントの事業内容についてご説明いただけますでしょうか。
東海林
 わたくしどもは、J-REITの資産運用会社です。当社の運用するREITは、2020年1月現在9つある物流施設特化型REITの一つです。物流REITは住宅やオフィスREITに比べて事業者との契約期間が長く、安定的な収益分配が期待できるのが魅力であり、ミドルリスクミドルリターンアセットの王道だと自負しています。投資家数は2019年7月末時点では1万3千名ほどですが、そのほとんどが個人です。ネット注文の裏で物流事業者が皆様のお手元に荷物を届けるわけですが、そのプロセスの中に私どもの先進物流施設も組み込まれています。そういった意味で、個人投資家の方々には、私どもの物流REITへの投資を通じて物流ニーズの動向をより身近に感じていただきたいと考えております。
豊島
 なるほど。ネット通販を利用する消費者が、REITを通じて物流業界の変化を実感するというのは面白い視点ですね。
東海林
 伊藤忠商事の本業は商流ですが、非資源商社なので、お取引先は製造業に加えて、アパレル関係、食料関係などの生活消費関連分野の荷物も多く取り扱っております。当然の事ながら、商流の裏には物流が必要となるため、結果として、私どもの施設に入っていただいているテナントの多くは、伊藤忠グループの商流と親和性の高い荷物を扱っています。また、商流のバリューチェーンを理解しているからこそ、物流分野において開発から保有、運用まで一気通貫したサービスを提供できると考えております。わたくしどもも、運用するJ-REITを通じてこれからの商流に貢献していきたいと存じます。

J-REITの役割

豊島
 コーポレートガバナンスの面からもREITの果たす役割が今後ますます重要になってくると考えています。昨今、上場企業に求められるROEについて8%を基準とする議論がありますが、ROEで8%出すという事は、税引き前で言うと15%程度の利益率を出していかなければなりません。一方、不動産に求められるキャップレートは3%から5%程度で議論される事が多いのですが、「普遍的なコストで利用できるものを物流企業がバランスシートで直接保有する事が、はたして株主資本の使い方として効率的なのか?」という事が、コーポレートガバナンス改革の中で問われています。物流企業としては、これからも増加する物流施設への需要に対して、自社で開発保有するよりはREITを活用していくという流れが継続すると考えます。
東海林
東海林氏
 まさしく豊島代表のおっしゃる通りです。伊藤忠商事も商社ですので、基本的に自分のBSに資産を滞留させるという発想はありませんが、先ほど申し上げたように、バリューチェーン全体を見渡せるからこそ、私どもが責任を持って上場物流REITの運用を担う事が出来ると考えています。
豊島
 「バリューチェーン全体を見渡せる」というポイントが1番大切なところだと私も思っております。東海林社長も私も90年代末の不良債権問題やリーマンショックを経験し、J-REITが発展してきた歴史を見てきました。2001年にJ-REITが最初に出たとき、日本企業は過剰債務に苦しんでおり、バランスシートから資産と負債を分離する必要がありました。J-REIT初期の頃には、不良債権処理に絡めて取得した不動産をREITに売却して儲けようという動きがかなりあり、独立系のREITも沢山ありましたが、不動産を単なる投資ネタとして扱っていた初期REITの多くは、リーマンショックの時に淘汰されてしまいました。一方で、大手事業会社がスポンサーとなったREITは順調に発展しています。そこからの学習は、REITというものはアセットだけではダメなんだと。結局、そのアセットの使われ方まで理解し、成長できることが重要なんだよと。伊藤忠グループは信用という意味でREIT市場の発展に貢献なさっていると思います。
東海林
 J-REITの創成期には、J-REITが自分のスポンサー(注:J-REIT資産運用会社の親会社。主にデベロッパー・総合商社・金融機関等)から物件を購入することが問題になりました。ちょっと語弊はありますけれども、スポンサーの利益のためにREITを利用する、そんな批判も創成期にはあったんですね。ただやはり、年数を経てREIT市場と投資家の双方が成熟しましたので、今では、当局の指導並びにREITの運用会社の統制がしっかりと利いております。やはり、スポンサーとタッグを組んで、投資家価値の最大化にしっかり向き合っているREITが、結果として生き残ったと実感しています。特に思うのは、物流アセットというのは、やはりスポンサーが持っているネットワーク、これをフル活用しないと、投資家の皆さんが期待するようなリターン、継続的安定的リターンを出すのはしんどいのではないでしょうか。そういうアセットタイプなんだと、運用していて特に強く思いますね。
豊島
 私がテナントである物流業者の立場で考えても、使用している倉庫のオーナーが突然変わったり、契約条件が予測不能な変化をするようなことだと、ビジネスプランが描きにくいだろうなと思います。マーキュリアも、伊藤忠商事や日本政策投資銀行をストラテジックパートナーとして明示しております。理屈では利益相反が発生しうる面もありますが、重要なのはそのプロセスがきちんと透明化され、ガバナンスがきいているかどうかということです。むしろ、シナジーがあるという点において、我々は自信を持っているところです。
東海林
 ご指摘の通りだと思います。そのシナジーをどういう形で安定的にマーケットにお示しできるか、これが正しく我々に求められている事柄であると強く思います。

運営業者の役割

豊島
 私もREITに関与しながら、少し悩む事があります。それは、現在のREITの制度設計が資産保有に特化しすぎていて、REITのアセットマネジメント会社が余計な事はしなくていいという建てつけになっている事です。しかし、REITアセットの種類がヘルスケアや物流不動産等の事業型資産に拡がることによって、実物資産とオペレーションの間の中間領域が広がってきているように感じます。REIT資産を使うのは事業会社ですが、ビジネス価値を最大限発揮するためにはどうすればいいのか、デジタルトランスフォーメーション等の技術変革への対応をどうするのか、そこをテナントさんの投資にするのか、REIT含むスポンサー側での投資にするのか、その中間領域のマネジメントというのは本当に何もなくていいのか。私個人としては、実は必要なのではないかと考えております。
東海林
東海林
 おっしゃる通りだと思います。立地や建物が重要なのは当然ですが、それだけでは施設は日々劣化していきます。また、物流モデルの進化に併せてテナント様の要求スペックも進化します。そういった中で、我々資産運用会社としては、テナント企業様の痒い所に手が届くようにしていかなければならないと思っています。自動化装置などのハードに留まらず、ソフトでも伊藤忠グループとしてはある面打って出ないといけないと考えております。

マーキュリアBizTech投資戦略

豊島
 今般、伊藤忠さんとの議論の中で、不動産、物流、建設をテーマにしたビズテック(BizTech)投資戦略を立ち上げました。この投資戦略の投資先はB to C企業ではなくB to B企業を想定しています。物流分野には68,000社の企業がありますが、自分でシステムを構築できている会社というのは数社しかないと認識しておりますし、今後必要とされる自動化分野であったり、それぞれの物流事業者の繁閑サイクルの違いなどに注目したシェアリングエコノミーの発想が拡がっていくのではないかと期待しています。
東海林
 私も現場を見るように心掛けていますが、豊島代表がおっしゃった通り、必ずどこかでオペレーション上の改善工事が行われています。「あれ、この間もやられていましたよね。」と言うと、「日々改善なんです」とおっしゃるんです。倉庫内の従業員もなかなか集められない中、今後どうやってワーカーの負荷を減らしながら、高度化する物流ニーズに対応するのか、単に機械を入れればできるというそんな簡単なものじゃないんですよ。
豊島
 そうですね。Amazonのような全てを自分達でやろうという巨大企業は例外で、先ほど申し上げました6万8千社の事業者のほとんどが中小企業で、単独ではシステムや設備対応ができない訳ですから、インフラとして横串のサービスや技術革新を提供する企業の登場が望まれます。弊社のBizTech投資戦略の切り口として、これからもアドバイスをお願いいたします。

機関投資家とREIT市場

豊島
豊島
 話題は変わるのですが、REIT投資家についてです。先ほど、貴社の運用するJ-REITの投資家1万3千人の殆どが個人投資家でいらっしゃると伺いましたが、我々が伊藤忠エネクスと共同して立ち上げたインフラ投資法人も現在のところは殆どが個人投資家です。新しいタイプの上場REITは、まだ規模も小さく機関投資家の見方はまだまだ慎重です。しかし、日本経済の基本の部分を担っている機関投資家こそが、産業社会の構造変化に着目し、事業資産を対象とするREITに対してより積極的に資金をアロケーションできるようになって欲しいと思っているんです。
東海林
 私どもも商流と物流の関係について、商社グループの持っている可能性や現業との距離感など、もっともっと丁寧に機関投資家の皆さまに伝えていく必要があると思います。
豊島
 実は私どもの投資をマネジメントするというのも、商社さんが商流をマネジメントするというのもすごく似た要素があります。結局、裏にある事業はどうなのかその事業に注目しているという事です。事業発展があって儲けが出るという発想は、我々としても非常に共感し、また学ぶところが多いと思っております。
東海林
 私は、「信用」は過去のトラックレコードから生まれ、「信頼」は将来にむかっての、ここだったら大丈夫だろうなという安心感だと思っております。「信頼」を獲得するためには、我々はサザエさんの三河屋さんじゃありませんけれども、常に御用聞きを行っております。これは商社グループだからこそなのです。冒頭に申し上げた、物流テナント企業様も色々な悩みがあります。例えば、段ボール等の梱包材が中々安価にタイムリーに調達できない、ましてや梱包材をストックしておくヤードも必要だけれどスペースが無駄になると。そこで、伊藤忠グループを使って、欲しい時に欲しい分だけ安価に調達したいんだ。こんな課題をぶつけられて、グループ企業を含めて一定程度の解決を図ることが出来てきました。設備関係のメンテナンスも色んなところに発注して大変なんですと聞けば、伊藤忠グループの中の事業会社で得意な会社がありますよという提案もしています。
豊島
 熱意を感じます。従来のREITマネージャーの枠を超えて、やることが本当に沢山ありそうですね。
東海林
 日本のEC化率は7%強と、中国、欧米に比べて低いので、物流REITについても今後の成長の楽しみは多くあると思います。為替の影響を受けにくく、テナントとの長期的な関係を通じて分配金の蓋然性については非常に高いのではないかと思います。このことを改めて投資家の皆様にも申し上げられればと強く思っております。
豊島
 運用会社の顔が見えることでより幅広い投資家の資金が集まるようになると期待しています。低金利局面において、分配金利回りも魅力的ですね。
東海林
東海林氏
 そうですね。物流REITは分配金利回りが4%程度の水準にあります。東証一部銘柄の配当利回りは平均すると2.5%くらいですが、REITは基本的に法人税を払わなくていいので、その分分配にまわすことが可能です。
豊島
 本日は、物流REITの魅力について、いろいろ教えていただき、ありがとうございました。当社のビズテック(BizTech)投資戦略にとっても良い刺激をいただきました。最終的にビジネスで実際に使えるかどうかが重要ということで、そのあたりの意識が非常に高い起業家も増えてきておりますので、今後とも議論をさせていただければと思います。
東海林
 是非とも宜しくお願いします。継続は力なりだと思いますので、引き続きこのような関係を続けていきたいと思います。その中で具体案が出てきて実現できれば一番いいかなと思いますね。

東海林 淳一
伊藤忠リート・マネジメント株式会社
代表取締役社長

伊藤忠商事株式会社に1988年入社。株式会社センチュリー21・ジャパンへの出向や、伊藤忠商事の建設第一部部長代行、ADインベストメント・マネジメント株式会社常務取締役管理本部長を経て、2017年2月より伊藤忠リート・マネジメント株式会社代表取締役社長に就任。